食品のロット管理は番号だけでは足りない。原料から出荷先までの対応を残す
「この原料を使った商品は、どこに納めていますか」。取引先から聞かれ、原料のロット番号と在庫表は出せても、製造や出荷の記録をつき合わせないと答えられない。食品のロット管理で履歴を説明するには、原料を実際に使った製造、できた製品、納入先の対応が必要です。番号があることと、そこまで追えることを分けて考えます。

在庫表で分かることと、履歴の説明に要ること
原料の在庫表にロット番号、数量、保管場所があれば、手元に何があるかを確認できます。ただ、その原料をどの製造で使ったかは、別に記録しなければ分かりません。製品の在庫表も同じです。倉庫にある製品ロットを把握できても、納入先に渡した製品ロットまで説明できるとは限りません。
原料から先を追うときは、実際の投入と製造、加工・小分け後の製品、出荷先の対応をたどります。逆に、納入済みの製品から使った原料へ戻るときも、同じ対応が必要です。このように履歴をたどれることが、ここで扱うトレーサビリティです。
製造日や品名が同じでも、対応を記録したことにはなりません。予定の配合表や先入れ先出しのルールは、実際に使った原料や出荷した製品を確定する証拠とは分けて扱います。
同じポテトサラダでも、残っている記録で答えが変わる
架空の食品加工・卸会社で、ポテトサラダの履歴を考えます。実在企業の事例ではありません。対象の原料はじゃがいもで、ほかの原料の履歴を省略した説明例です。
対応が記録されている状態では、じゃがいもの原料ロットR-Aを製造M-1とM-2に分けて使っています。M-1で作って小分けした製品ロットはP-X。M-2ではR-Aと別の原料ロットR-Bを混ぜて使い、小分け後の製品ロットP-Yを作っています。
P-XとP-Yは委託倉庫に入庫し、P-Xは納入先の甲と乙へ、P-Yは乙へ出荷した記録があります。以下の比較では、この製品群とロット番号を変えず、残っている対応記録を変えます。

原料を分けて使った対応が残っている
R-AからM-1、M-2へ、それぞれP-X、P-Yへ進んだ記録があれば、R-Aを使ったと確認できる製品はP-XとP-Yです。さらに製品ロット別の出荷記録から、納入先の甲と乙まで説明できます。
R-Aを一度使っただけの記録では、別の製造に回した分を捉えられません。対応に抜けがあれば製造責任者が分割使用の記録を確認します。会社に残る仕事は、同じ原料を別の製造に使うたびに投入先を残し、小分け後の製品と各出荷先の対応も記録し続けることです。
ここで説明できるのは、記録で確認したつながりです。記録にない製造や出荷を、ただちに「ほかにはない」として除外することはできません。
別の原料ロットを混ぜた対応が残っている
M-2の投入記録にR-AとR-Bがあり、M-2からP-Yへの対応と、P-Yから乙への出荷記録もあれば、R-BからもP-Y、乙へたどれます。乙に納めたP-Yから戻ると、R-AとR-Bの両方を確認できます。
一方、混ぜた事実だけから、各小分け品に入った割合や量まで確定はできません。その説明も必要なら、製造責任者に、混合から小分けまでの記録がどこまで残っているかを確認します。日々の運用では、投入した原料ロットを一つに代表させず、複数の対応を残す仕事が続きます。
M-2に実際に投入した原料の対応が欠けている
M-2とP-Yの対応、P-Yを乙へ出荷した記録があっても、M-2の投入記録がなければ、P-YにR-AやR-Bを使ったとは確定できません。配合予定に両方の番号があっても、実績の代わりにはなりません。
この状態でも、記録が残るR-A、M-1、P-X、甲・乙の対応は説明できます。ただし、R-Aが関係する製品をP-Xだけに絞ることはできず、P-Yへの使用は未確認です。
製造責任者が当時の実績記録の有無を確認し、裏付けが得られなければ未確認を残します。以後は製造の都度、実際に投入した原料ロットと製造番号を残す担当を置きます。ソフト同士をつないでも、記録されなかった実投入を取り戻すことはできません。
委託倉庫から乙へ出した製品ロットが欠けている
今度は製造までの対応が残り、倉庫へのP-X、P-Yの入庫と、甲へのP-Xの出荷は確認できる状態です。乙への納品記録には品名だけがあり、出荷した製品ロットが書かれていないとします。
R-AからP-X、P-Yまでは追え、P-Xを甲に渡したことも説明できます。しかし、乙にP-XとP-Yのどのロットを渡したか、片方だけか両方かは確定できません。倉庫に両方があったことや、出荷日の近さでは埋められない欠落です。乙への出荷がある以上、ロット不明を理由に乙を確認対象から外すこともできません。
物流担当が委託倉庫に実出荷のロット記録を確認します。今後も、倉庫側が出荷の都度ロットと納入先を残し、自社の物流担当がその記録を受け取る仕事が必要です。倉庫内の所在を見られるだけでは、納入先との対応は補えません。

ポテトサラダの記録を、誰がどこまで維持するか
この架空会社では、M-2の投入対応と、倉庫から乙への出荷対応が欠けている状態で、ポテトサラダの記録を見直すことにしました。ほかの製品群へ広げる前に、会社として答える質問を二つに固定します。
- 原料R-Aを使った製品ロットは何で、それぞれどの納入先へ出荷したか。
- 甲に納めた製品P-Xには、どのじゃがいもの原料ロットを使ったか。
保有しているのは原料の入荷記録、M-1の投入記録、M-1・M-2と小分け後のP-X・P-Yの対応、倉庫の入庫記録、甲へのP-Xの出荷記録、乙への品名だけの納品記録です。二つ目はR-Aの使用を記録で示せます。ただし、それ以外のじゃがいも原料を使っていないと答えるには、M-1の投入記録に抜けがないことも確認します。一つ目は、P-Yへの投入と乙への製品ロットの対応が未確認のため、製品と納入先の一覧を確定できません。
会社が選んだのは、まず現行の記録様式をそろえる方法です。製造責任者が製造の都度、投入した原料と製造番号を残し、小分け時に製品ロットとの対応を確定します。不在時は副責任者が引き継ぎます。物流担当は委託倉庫から実出荷ロットと納入先の記録を受け取り、不明があれば倉庫へ確認します。不在時の引継ぎ先は営業主任です。
取引先への履歴説明は品質責任者が取りまとめ、不在時は工場長が引き継ぎます。未確認の対応は、回答をまとめる過程でも推測で確定済みに変えません。
この記録と確認に要する時間は未計測です。製造ごとの記録、倉庫記録の受領、欠落の確認にかかった時間を初回の運用で把握し、通常業務と両立できるかを工場長が判断します。担当を決めたことだけで、作業時間まで確保できたとは扱いません。
M-2の投入や乙への出荷に未確認が残る間は、対象製品群やシステム連携の範囲を広げません。以後の記録を維持する担当と時間を確保できない場合も、拡大を保留します。過去の裏付けが得られない部分は、今後の記録を整えても未確認のまま残します。
ソフトを比べるときも、同じ履歴と記録負担で比べる
比較する範囲は、ポテトサラダの原料投入から混合・小分けを経て、委託倉庫から納入先へ渡るまでです。範囲を変えたまま、製品の在庫管理と原料からの追跡を比べても、不足や負担を判断できません。
| 補い方 | 選べる条件と、続けて必要な仕事 |
|---|---|
| 重複する転記をやめる | 同じ対応を別の表へ写しているなら、参照先を一本化する。元記録の保管と、必要な担当が参照できる状態は維持する。独自の確認や訂正を担う記録まで消さない。 |
| 現行の記録を標準化する | 実投入、小分け、出荷の対応を既存の帳票で残せるなら、番号と記入時点をそろえて続ける。各工程の記録と訂正、不明箇所の確認は担当者が行う。 |
| 既製のクラウドサービス・パッケージを使う | 同じ原料の分割、複数原料の混合、小分け、倉庫出荷まで標準機能で記録・参照できるかを確かめる。実績の入力と訂正、担当交代後の維持は自社に残る。 |
| 既存システムを限定的につなぐ | 実際の対応が既に記録され、離れた記録を結び直す負担がある場合に比べる。受け渡す番号の対応と、連携失敗や訂正時の確認担当を維持する。 |
| 固有の不足だけを開発する | 必要な履歴を残す役割が決まり、標準機能や既存記録の連携では満たせない具体的な不足がある場合に限る。その不足に加え、改修後の保守と担当引継ぎも引き受ける。 |
これらは順番に進む導入段階ではありません。現行帳票で十分なら続け、標準機能で足りるなら独自開発はしません。既にある対応をつなぎたいのか、実際の投入や出荷を記録するところから補うのかで、選ぶ方法は変わります。
この会社で先に決めるのは、M-2の実投入を残す責任と、倉庫から実出荷ロットを受け取る運用です。その仕事が定まってから、記録を維持できる方法を同じ範囲で選べます。
履歴は、安全性や出荷の可否、回収の要否・範囲を判断する材料です。最終的には、権限を持つ責任者が検査結果などの別の情報も合わせて判断します。
ロット番号を増やす前に、原料から製品、製品から納入先へ、実際の対応が残っているかを確かめる。欠けたところを誰が補い、その記録を毎回誰が維持するかまで決めて、初めて追える範囲を会社として説明できます。